2024.06.24
MDP Galleryのグループ展に新作を出展
インスタグラムではお知らせしていましたが、目黒のMDP Galleryで開催された「ART SHODO MDP SELECTION vol.1」に作品を出展しました。
このグループ展は、文字や文章などのテキストがテーマ。書道系の作品が多い中でしたが今回新しい作品「STORIES NOT USED בְּרֵאשִׁ֖ית בָּרָ֣א אֱלֹהִ֑ים אֵ֥ת הַשָּׁמַ֖יִם וְאֵ֥ת הָאָֽרֶץ׃ WYC1382」を展示させていただきました。
今作では、現代アートとしてのフォントセットを作っています。




これは僕が2021年から取り組んでいる、ソノグラフを使ったシリーズの最新作です。
ソノグラフとは、音を周波数ごとに分けて強さをグラフにする装置のこと。
最初にこれを使ったのは、天王洲アイルのKIWAで上演したインスタレーション“Sheet Music for Blank Space” #01 STEVE REICH / COUNTERPOINTという作品でした。
通常、ソノグラフというのは何かの音を調べるために使うものなのですが、僕は「何かの音の周囲に漂っているノイズの形を見る」ためにソノグラフを使っています。
この「STORIES NOT USED בְּרֵאשִׁ֖ית בָּרָ֣א אֱלֹהִ֑ים אֵ֥ת הַשָּׁמַ֖יִם וְאֵ֥ת הָאָֽרֶץ׃ WYC1382」という作品では、僕が発音したAからZまでの音の中から見つけ出した形を使ってフォントセットを作っています。
例えば、Aの音ならAという音の周辺にある音が立ち上がる前後のノイズを探し出し、それを抽出して加工。それを、GRYPHSというフォントエディタに入れてフォントセットを作っています。作品のタイトルにもなっている「STORIES NOT USED(使われなかった物語たち)」は作成したフォントセットの名前です。
言わずもがな、文字は思想を広く、そして時を超えて流布させていくための発明です。インタビューなどで言い淀みや言い間違えが無かったことにされ、綺麗な文章として整形され、広がっていく。でも、その際にこぼれ落ちたものの中にこそ、人の想いの曖昧な本質が潜んでいるのではないかと思うのです。
今作では、その文字にならなかった、こぼれ落ちた概念をどうしたら拾い上げられるか、という実験としてフォントを作っています。記録されないものたちを掬い上げ想像するために作成したフォントが、STORIES NOT USEDです。
さて、このフォントセットで今回書き出したのは、ウィクリフという人が1382年に発表した英語訳の聖書の最初の一文。
“In the bigynnyng God made of nouyt heuene and erthe.”(はじめに神は天と地とを創造された)
1611年の欽定訳聖書と比べてみましょう。
“In the beginning God created the heaven and the earth.”
ウィクリフは初めて聖書を英語訳したことで知られています。405年に作られたラテン語訳の聖書から英語訳を作ったそうですが、Biblia Sacra Vulgata と呼ばれているラテン語訳の聖書の最初の一文はこうなっています。
“In principio creavit Deus caelum et terram.”
同じA-Zを使って書かれた同じ意味の文章のはずなのに、どうしてこんなに違うのか。不思議です。
そして大元のヘブライ語では、このように表記されます。
בְּרֵאשִׁ֖ית בָּרָ֣א אֱלֹהִ֑ים אֵ֥ת הַשָּׁמַ֖יִם וְאֵ֥ת הָאָֽרֶץ׃
この文章はなんと右から左に向かって読んでいきます。
二千年もの間、同じ文章を色々な人が色々な考えで翻訳していく中でも、きっと色々なものがこの文章の周りに漂っていて、記録されずに消えていったのではないかと思います。
個展のお知らせ

さて、この作品ですが今年の8月17日から9月1日まで青山のスパイラルガーデンで開催される僕の個展「越境するアート、横断するデザイン。」に展示する予定です。
もし興味を持たれた方は、ぜひ遊びに来てください。
デザインやアートをといった今までの様々な活動全体を展示する、日本初の大型個展になります。今まで海外でしか展示してこなかった作品、あまりお見せできていなかった作品など、様々な作品をお見せする予定です。 是非、お越しください。
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