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2024.09.12

こんにちは。山﨑晴太郎です。

半年かけて準備してきた青山スパイラルガーデンでの個展が終わり、ほっと一息ついているところです。開催を実現させてくれたスパイラルの皆様、JR西日本をはじめとした協賛・協力企業の皆様、協力してくれたセイタロウデザイングループのメンバー、そして来場してくださった方々に、改めてお礼を申し上げます。

これからしばらくは、海外での展示が続きます。今月末のワルシャワ・ギャラリーウィークエンド、来月のシロキ・ブリイェグ(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)個展とフロリダのデランド美術館でのグループ展、再来月のベルリン個展。来年3月の韓国でのグループ展参加。その先に中国での個展。他にも様々な企画が進行中です。

さて、今回は、青山スパイラルガーデンの個展で展示した作品について、それぞれ簡単にご紹介していこうと思います。諸事情で会場に来られなかった方もいらっしゃるでしょうし、展示自体は、デザインやアートの垣根を横断しながら展示をしていたので、少し捉えにくい部分もあったかと思います。アート作品の展示についても、今回は敢えて現代アートの展覧会のような見せ方(たとえば各セクションごとにキュレーターの解説が掲げてあるような)をしなかったので、それを補う意味もあります。

P, z

まずは会場を入ったところにあったバイクの化石のような作品。これは僕が取締役兼CDOを務めている製造業を生業にする会社。株式会社JMCのプロジェクト「P, z」とのコラボ作品です。

P, zは旧車の部品を現代の最新技術で作るというプロジェクトなんですが、その根底にあるのは、いたずらに飾り立てたクラシックカーを見せびらかすのではなく、普段使いの信頼出来る道具の選択肢の中に旧車を、というものです。

そこで、「未来からの化石(後述)」シリーズと同じ塗装でカワサキZ1を作りつつ、アクリルのブランドロゴは入れない形になっています。「未来からの化石」と見比べていただけると、どこが同じでどこが違うのかがおわかりいただけると思います。

名前のないポートレート

2018年にacoyaという日本とオランダのアーティストが大村湾の真珠養殖産業をテーマに作品を作るプロジェクトに招聘していただきました。その時に制作したインスタレーションの一部です。

真珠は、母貝から取り出した時は、歪な個性を持った形をしています。それを研磨し漂白し、あたかも均一な工業製品化のように宝石として出荷されて行くわけですが、本作はその処理を施される前の個性を持った真珠玉を糸で繋ぎ合わせて、大村湾の海中の音を流しています。一つ一つ形が違う真珠たちの姿から、それぞれの真珠貝一つひとつが過ごすべき、個性のある時間を感じ取ってもらえればと思いながら作りました。

この作品は九州地区で放映された半導体メーカーのCMにも採用されています。

フォントのための水墨

今回の個展用に準備した新作シリーズです。

僕の視覚表現に大きな影響を与えているのが、水墨画とスイススタイルのタイポグラフィです。このシリーズでは東洋と西洋、二つの伝統を重ね合わせてみました。

ご存知のように東洋の水墨画は画面の中に文字を書き込むことが当たり前のように行われています。中国では跋、日本では画賛と呼びますが、そこでは文字そのものの美しさや文字と絵の組み合わせの美しさも追求されています。一方、西洋のタイポグラフィでも文章を組んだときの美しさは重要です。

この作品ではタイポグラフィを水墨画の画賛として見ることも出来ますし、水墨画をタイポグラフィの背景として見ることも出来ます。これもまた、視覚表現としての文字を再定義する試みの一つです。

こぼれ落ちたものの標本

今回の個展でメインとして展示したシリーズです。

これは前回のメールマガジンでご紹介した通りです。

Stories Not Used

フォントセットそのものをメディアアートとした作品です。ラテンアルファベットのAからZまで順に発声して、それぞれの文字に対応した声のソノグラフの周辺から、その文字に似た形を取り出して、フォントセットにしています。といっても僕たち人間はフォントファイルそのものを読むことは出来ないので、幾つかの有名なフレーズを書き出して展示しています。今回展示したのはシェークスピアのソネット18番“ Shall I compare thee to a summer’s day?”、ギルガメッシュ叙事詩、ウィクリフ訳聖書より「創世記1 : 1」です。このシリーズでは、印刷とフォントという歴史自体のもう一つの世界線を描いていけたらいいな、と思っています。

文字を読むという行為の身体性を再定義するため、Big Bookの作品も展示しました。また来場者が自由に文字列を入力してプリントアウト出来るコーナーも設けました。

未来からの化石

これも比較的目立つ場所に展示したものです。

「未来からの化石」は2022年に制作したシリーズです。様々なグローバルブランドの商品をスキャンしたデータを鋳型用の砂で3Dプリントして、焼いたり色を塗ったりして仕上げています。ブランドロゴだけがアクリルで出来ていて、商品本体から飛び出すような造形です。砂で出来た本体は時間経過とともに消費され、ボロボロになっていきますが、ブランドロゴだけは変わらずに輝き続けるということになります。

この中の「ナイキ・エアジョーダン1」は僕の代表作の一つで、これまでにイタリアやアメリカで何度も展示されています。今年10月からデランド博物館で展示されるのも「ナイキ・エアジョーダン1」です。

陰翳礼讃

僕が現代アートを作り始めた最初の頃の作品で、アムステルダムで発表しました。谷崎潤一郎の随筆「陰翳礼讃」をモチーフにしたインスタレーションです。デザイン業界では、「陰翳礼讃」は基礎文献といって良いくらいに知られています。

この作品では「陰翳礼讃」という四文字を、文字が文字になる直前を捕まえるという意識で文字のプロポーションを溶かしたような形をデザインしました。それを切り抜いて紙ではさみ、光を背面から投下させることで曖昧な文字の存在を表現しています。実際のインスタレーションでは笙や水琴窟をサンプリングして制作したアンビエントミュージックを流し、香を焚いています。曖昧さへのこだわり、文字を再定義する試み、日本の美意識など、僕の表現に共通する要素はこの頃から一貫しているようです。

多様性の花束

大きな空間を使うインスタレーションは「名前のないポートレート」(2018、長崎オランダ村)、「陰翳礼讃」(2018、アムステルダム)、「たゆたい」(2019、那覇空港国際ターミナル)、「都市の胎内」(2021、ザ・パークハビオ渋谷クロス)など、定期的に作る機会があったのですが、屋外で長期間展示出来るような頑丈な立体作品は、これが初めてです。スチールで作ったフレームに古材と石を貼り付けて、周囲に玉砂利を敷き詰めました。モチーフにしたのは侘茶の茶室です。鉄(茶釜)、木、石という素材が共通しています。

鉄と木と石は素材の特性が全く異なり自然素材は時間を内包しています。今この瞬間はこういう形で立っていますが、時間経過とともに鉄は錆び、木は腐り、石は摩耗していきます。その変化の速度もそれぞれ異なります。このように「異なるもの」がお互いに違和感を抱えつつ一つになっている交点としての瞬間を、花束のように愛でられないかと思いながら作りました。

これからさまざまな土地をテーマにシリーズ化出来ればと思っています。

声の余白

時事ニュース的なものに直接言及した初めてのシリーズです。世界各地の様々なニュース動画の音声をソノグラフで図形化して、人の声とバックグラウンドノイズの境界を漂っている図形を取り出し、少しだけぼかした動画のスクリーンショットの上に並べました。

言葉では伝えきれないもの、敢えて言葉にしなかったもの、言葉に出来なかったものがあるということをどう僕なりのやり方で表現するか、その実験の一つです。このシリーズから2点、今月末のワルシャワでのグループ展に出品しています。

「或る」音楽家にむけた「或る」楽曲のための祈り

ギタリストの田中義人さんとのプロジェクト「NU/NC」のために描いた図形譜です。図形譜とは、五線譜などはっきりしたルールにしたがって書かれた楽譜ではなく、様々な図形で音楽を表現したもの。1950年代に現代アートの抽象絵画の影響を受けて盛んになりました。はっきりした線や色彩で描かれたものがほとんどなのですが、ここでも僕は音の粒子と画の粒子を繋ぎ合わせて、曖昧な画面を作っています。この図形譜をもとに田中さんがスケッチした音楽に今度は僕がフィールドレコーディングをして素材を返していく。このように往復所管のような作業を経て出来上がった楽曲は、「或る風景の記憶」というタイトルで、7インチのアナログレコードにして販売しました。Spotify等で今も聴くことができます。

都市の胎内

2023年に三菱地所レジデンスさんの委嘱で作ったインスタレーションです。渋谷の都市空間のど真ん中に静寂の象徴となるような静謐な空間を作り、胎内の音に似せた音を流しています。古木や金属板といったプリミティブな素材を用いながら、他者と関わる動的な都市の中に自己を内省する静的な空間を作ろうと試みた作品です。この個展ではインスタレーションに使った古木の一部を展示しました。

八百万の痕跡

これは2023年から作り始めたシリーズです。様々な土地の「気配」「地霊」のようなものを視覚芸術に出来ないかなというのが出発点です。今回展示したのは、僕が夜に渋谷駅の周辺を歩き回りながら撮影した動画の音声をソノグラフに通して、そこに出てきたふわふわとした形を思い切り拡大して、写真のようにプリントしたものです。

日本列島では古代から、ありとあらゆるものに精霊が宿るという宗教観があります。これはポケモンのように様々なものをキャラクター化する文化とも関わりがあると思います。日本では、そうした精霊たちを総称して「八百万の神」と呼んでいます。名前がついているような有名な神様は人の形で絵に描かれることも多いのですが、僕はそれとは逆に決まった名前もないような精霊たちの痕跡を表現してみようと考えました。

「八百万の痕跡」には洋風の額装と和風の軸装の2種類があります。額装の方はコントラストを上げ、少しだけ立体的に「痕跡」をくっきり見せていますが、軸装の方はソノグラフから拾ったままのぼんやりした「痕跡」のままです。

余白のための楽譜

僕の今の作品づくりの一つの中心軸になっているソノグラフを初めて使った作品です。スティーヴ・ライヒの有名な「カウンターポイント」という楽曲の音と音の周辺を漂っている、ノイズとも楽音とも見分けづらい音のソノグラフが延々と映し出されるものです。

楽譜は(図形譜も含めて)楽音の出し方を記述したものですが、楽譜の余白から音を取り出すとしたら、それはどんな音になるのかという作品になっています。

無価値の結晶

2021年に作った作品です。当時、割れてしまった陶磁器が金継ぎを施されることで、割れる前とは別の価値を帯びる現象が面白いなと思っていて、それならば金継ぎする前には何の価値も持たなかった樹脂の塊を金継ぎしたら、そこに何が現れるのかを実際に制作して、調べてみたものです。

Wesmoくん(仮)

JR西日本の決済・ウォレットサービス「Wesmo」のロゴマークとしてデザインしたものを、スカルプチャーにしました。単にロゴマークを3D化するだけでは面白くないので、アルミ鋳造とFRPをそれとはわからないように滑らかに繋ぎ合わせて、片方の端からは更に小さなWesmo!くん(仮称)が湧き出すようなアレンジをしています。Wesmo!という大きなサービスも結局、小さな一人ひとりの集合体でできている。全ての人たちを繋いで未来を作っていく、という光景をイメージしています。これもまたある種の「八百万」かもしれません。

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