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2024.10.30

今回は8月から9月にかけて関わっていた、文化庁のコンテンツドリブン成長戦略プロジェクトについて。

文化庁のコンテンツドリブン成長戦略プロジェクト、これは文部科学副大臣の今枝宗一郎さんに頼まれ、オブザーバーとしてチームに入っていたものです。簡単に言うと、美術館や博物館、名所旧跡、文化財、舞台芸術、音楽、映画、漫画、アート、食文化などなど、まとめて「コンテンツ」と呼んでいるようなもののポテンシャルを生かして日本の経済成長に繋げるためには、何が必要なのかというグランドデザインを考えるプロジェクトです。

さて、実際に僕たちが何をやっていたかというと、広い意味でのコンテンツビジネスの現場で活動されている方々のお話を聞かせていただいて、現状と課題、そしてこれからの可能性を整理する、という作業です。文化観光、舞台芸術、音楽、映画、漫画、ゲーム、外食、デザイン、アート。

周知の通り、今や京都などインバウンドの観光客で溢れていて社会的にはオーバーツーリズムの問題が指摘されています。映画は「ゴジラ-1.0」、音楽は「新しい学校のリーダーズ」や「YOASOBI」、ゲームから始まり幅広いメディア展開をしている「ポケモン」、和食や寿司など、漫画も外食もデザインも、世界が夢中になるようなコンテンツが日本にはあります。その一方で、そうした成功事例が作品単位の成功事例で終わっていて、横に広がっていないという課題も出てきています。

たしかに京都は素晴らしい観光地ですが、日本には京都と同じくらい素晴らしい体験を提供出来る土地がたくさんあります。映画も音楽もゲームも舞台芸術も、もっともっと売れて然るべきポテンシャルがあるコンテンツで溢れているのに、何故そうならないのか。それを考えて、どうしたらもっと経済的にスケールするようになるのかを提言としてまとめていくのがこのプロジェクトでした。僕の役割は、クリエイターでありなおかつ経営者でもあるという立ち位置から、今後の日本のコンテンツ産業のグランドデザインの方針の提案を行うというものです。

さて、様々な分野の第一線で活動していらっしゃる方々のお話を伺って、まず僕が感じたのは、国外の市場を取るためのノウハウが各所でタコツボ化していて、横展開されていないという課題でした。コンテンツ産業を牽引する大企業は、長年の積み重ねで国外でのマーケティングのノウハウを持っています。現代アートなら村上隆さんのカイカイキキは圧倒的なアセットを持っているはずです。

ですが、例えば、伝統工芸の作家さんや駆け出しでどこのギャラリーにも所属していない現代アーティスト、個人経営のレストラン、あまり大きくない地方自治体などは、これらの大企業とは違った戦略で国外の顧客を獲得する必要があります。でも、そのためのノウハウが、もちろんどこかにはあるのだろうけれど、誰もが使えるような形にはなっていない。つまり、国として海外進出の足掛かりやルートを作れていないのです。なので全員海外へ出て行く道筋が手探りになっている。まずここをなんとかしようという指摘をしています。

PMF(プロダクトマーケットフィット)、つまり目標とする市場と商品のミスマッチが起きないような仕組みも重要です。外国の市場には国ごとに文化差があり、好みや慣習の違いがありますから、狙うべき市場に精通した現地の人をパートナーにしてマーケティングしていく必要があります。

異分野のクリエイターが出会いやすくなる仕組み、オプション・アグリーメントの普及なども提案しました。オプション・アグリーメントというのは、以前ハリウッドで日本のコンテンツを映画化するプロジェクトをやっていたときに学んだ仕組みなのですが、何かの原作を使ってビジネスを立ち上げる前に、映像化する可能性を検討するための期間を、そのためのお金を払って確保するという仕組みです。いきなり映像化決定となると契約までのハードルが非常に高いので、まずは版権を仮押さえして映像化の可否を検討するわけです。

また、これは実際に導入されたらとても面白くなると思いますが、日本全体でアニュアル・テーマを設定してみてはどうかという点も指摘しています。これはファッションブランドのマーケティングからヒントを得たものです。たとえば2025年は「月」というアニュアル・テーマをやろうと決まったら、誰でも「月」をテーマにした創作をして、それを発表してくださいとアナウンスする。このアニュアル・テーマにはファッションデザイン、建築、現代アート、日本画、漫画、アニメ、音楽、料理、映画、観光。どんな分野でも参加できるようにします。そうやって日本のコンテンツの「切り口を揃える」ことで、世界から日本コンテンツを点ではなく集合した面として、注目を集められるのではないかと思っています。

そしてもう一つの僕の役割が、どのようにしたらデザインやアートの力を日本のビジネス全体に行き渡らせることができるかを考えて、提案することでした。僕はデザイナーの仕事からスタートして、コンサルタントのような仕事もしています。自分でも会社を複数経営していますし、現代アートのアーティストとしても活動しています。つまり、デザインとアートと経営の三つの分野に足を突っ込んでいるので、コンテンツドリブン成長戦略を一緒に考える上でちょうどいい人材だった、ということなのかなと思います。

こちらの課題についての僕の提案は、経営に伴走しながらアートやデザインの要素を組織に実装していくチェンジ・マネジメントの専門家を、きちんと制度を作って育成しましょうというものです。これまでの僕の実感として、僕たちのようなアーティストやデザイナーの話を聞いた経営者が、いざアートやデザインの要素を自分の会社に導入しようとしても、誰をアサインすればいいかわからないというケースが非常に多かったので、並走する人材をきちんと認識できる形で育てていく必要があるなと思っていました。

それともう一つ、美術大学や芸術大学に会計や知財法、マーケティングなどビジネス関連の科目を開講することと、副専攻としてアートやデザイン以外の何かを集中的に学べるような仕組みを作ることも提案しています。いわゆるダブルメジャーの考え方です。こうした動きは欧米の美大では既に進んでいますが、アーティストやデザイナーとして独立するのであればビジネスの基本は絶対に必要ですし、アートやデザインに加えてもう一つの得意分野を持つことで、人材としての付加価値を大きくすることが出来ます。

僕自身も、大学では社会学の中の写真が専攻で、その後ニューヨークの専門学校で映画作りを学び、その後さらに京都造形芸術大学で木造建築を学びました。それ以外にも水墨画や生け花など色々なものを学んできて、一見関連のないようなそれら全ての経験が今に繋がり、表現に役に立っていると実感しています。

最終的に提言がどうなるのか僕にはまだわかりませんが、日本の素晴らしいコンテンツがもっと世界で評価されるようになるための一石を投じることができていたらと思っています。

より詳しい内容を知りたい方はこちらをご覧ください。

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