長崎県大村湾の真珠養殖産業。流通プロセスの中で安定した価値あるものとして提供されるため、真珠は漂白され、球状に研磨され、サイズでその価値が測られ、統一された工業製品として流通してきた。
だが、本来真珠が生み出される過程は、工業製品のように画一化されたものではない。
アコヤ貝の母貝が命の結晶として生み出した、均一性と対極に位置する、命をかけた個の結晶である。
一つ一つの真珠たちは、明確な個性をもち、その唯一無二の輝きは人の個性と重なり合う。
美しさは、均一性ではなく、多様でかけがえのない存在にこそ宿る。
もし、真珠たちが世の中に旅立つ時、その価値が工業的画一性ではなく、生命的個性に根ざしていたら。そんな歴史の中で使われなかった時間を、1つの空間の中に生み出そうとした作品である。
母の胎内をイメージしたこの空間は、空気も気配も命も音も、全てが独立して佇んでいる。自重を支える一本の糸は、真珠一粒一粒の人生の時間軸のように伸びている。
そしてその一粒一粒の人生は、置かれた空間に吹く風に揺られ、互いに絡まっていく。まるで、私たち人間の営みそのもののように。





