《STILL VOICE / 静寂の声》は、西洋絵画の中で長く描かれてきた「静物画(Still Life)」の形式と精神を、現代の視覚表現において再構築するシリーズである。

古典的な静物画は、果物、花、書物、ガラス器といった“動かぬもの=still”を描くことで、時間の流れや死の不可避性、物質のはかなさといった目には見えないものを封じ込めるための装置であった。静物画は常に静かであったが、その沈黙の中には、言葉にされなかった観念や感情が、確かに響いていた。本作は、その沈黙に宿る声=still voiceを現代に召喚する試みである。《STILL VOICE》は、静物画という静的な形式の中に、視覚・音・時間が溶け合う三重の構造を重ねることで、「不可視な声」の存在を浮かび上がらせようとするシリーズである。

作品のベースには、高解像度で撮影された写真が置かれている。そこには、スペイン・バロック絵画の静物画、ボデゴンを想起させる器、果実、花といった静物画に由来する構成要素が慎重に並べられている。しかし、その上には、視覚とは異なるもうひとつの時間――その場所で採取された音がソノグラフとして視覚化され、形を持った「音の像」として重ねられている。ソノグラフは、音の輪郭でありながら、どこか記号にも彫刻にも似た存在として、沈黙の中に配置される。そして、すべての像の上に、UVインクが垂れ落ちる。インクは定着を拒み、重力に従いながら形を崩し、すでに存在していた写真やソノグラフの一部を曖昧にしていく。

ここにあるのは、「目に見えるもの」「耳に聞こえるもの」「物質としての重力と崩壊」とが交差する場であり、どの層も完全に可視化されることを拒んでいる。それぞれが“未完成”であることによって、むしろ「声なき声」が、視覚と時間の間から静かに立ち上がる。《STILL VOICE》とは、完成された像ではなく、その成り立ちと崩壊の過程にこそ美を見出すための、現代の静物画である。その沈黙は、無音ではない。それは、世界の中で名づけられなかった存在たちの声が、いまなお鳴り響いていることを示している。