「Stories Not Used」は、歴史を語る様々な言葉からこぼれ落ちたもの、言葉の周辺に漂っていたけれども、言葉に記録されなかったものを主題としている。
これは、言葉としてはっきり聞き取れる音の周囲にあって、言葉からこぼれ落ちた音たちを集めて作られたフォント。A、B、Cと音読したラテン・アルファベットの発声のソノグラフのうち、発声される直前、あるいは音が消えてゆく寸前のグラフを拡大して抽出し、Glyphsというフォントエディタに入力してフォントセットを作成している。「Stories Not Used」とはこのフォントセットの名称でもある。
人類のコミュニケーションは音、身振り、表情などが組み合わさったものであるが、文字は音しか記録しない。しかも音の中でも明確に指し示すことが出来るものしか、文字は記録できない。しかし、人類の歴史の大部分は文字によって記録されてきた。そこには文字になる前にこぼれ落ちた膨大な情報があったはずだが、それらは記録されずに消えていった。このフォントは、文字として記録されてきた声の周囲には常に記録されなかった声が存在するということの暗喩である。



